フーテンの
寅さんのように露天で商売ができるバイタリティを持ち合わせていなかった私は、仕方なしに勤め人となり糊口を凌ぐしかなかったわけで。それでも全国を彼方此方ウロウロできたのは、時代が良かったからなのでしょう。
今は世知辛い世の中になっちまって、これから社会に出る甥っ子や姪っ子が、なんだか不憫に思えてくる。
それはそうと先日、私のことをちゃんと記憶してくれていた友人が、私がこの町で暮らして10年になると教えてくれた。アハハ、気付いたら長いですね。
昔はね、おいちゃん、おばちゃんの顔をたまに見に帰って、暫くしたらまた旅に出る、みたいなことを繰り返していたんだけれども、前回生まれ故郷に帰ったのを最後に、そんな元気がなくなっちまったい。
生まれ故郷に対して、過剰な期待をしていたからかもしれない。住めば都、なんてことをしょっちゅう口にしていたのは、どこの誰だ? 生まれ故郷だろうがどこだろうが、変わりゃしないんだって。住めば都なんだよ、住めば都。
今は、そこそこ有名な川のそばで静かに暮らしている。休みになったら川原へ行き、下手なギターを掻き鳴らし、下手なブルースをがなり立て、時に魚を釣り、時に物語を想像し、時にうたた寝をするのであった。